湖畔のひとりごと

スイスでの生活で気づいた事などを綴っています

一本の箒から生じる地元民との交流

先週末、我が家から1.5hで行けるイタリアの町、Domodossola(ドモドッソラ)へ行って来た。ここは土曜日のマルクトが有名で、スイスからも国境を越えて買い物客が大勢訪れる。

電車で国境を越えてドイツには行ったことがあるが、イタリアは未経験だったので一度行ってみたいと思っていたところ、友人がイタリアのStresa(ストレーザ)への小旅行の帰りにドモドッソラに寄るので、現地で合流して一緒にマルクトを散策しようと声をかけてくれたのだ。

私の友人Hさんとそのお友達のTさんがイタリアのストレーザから、スイスからは私とTさんの娘さんのSさん、そして彼女の子供2人がドモドッソラで合流することに。Sさんとは初対面だったが、子供達への接し方からしっかりと子育てしている姿が容易に想像できて、また話もおもしろくてとても好感が持てた。子供達も流暢な日本語を話し、1.5hの電車の旅は楽しいものとなった。

先に到着した我々はマルクトをちょっと覗くことにした。駅を出ると正面の道からすぐにマルクトは始まるのでアクセスがとても良い。

駅前からすぐに始まるマルクト


駅近くでは次々と大型バスが発着していて、観光客にも人気の町らしい。アジア人も結構見かけた。

私の家の近くのトゥーンや、よく行くベルンのマルクトは生鮮食品のスタンドも多いのだが、こちらは観光客向けなのか洋服、カバン、靴、その他雑多な生鮮食品以外のスタンドが主で、食品といえばチーズ、ハム、サラミなどを売るスタンドがまとまった一角に数件ある程度だった。

多くの人が列を成していたチーズや生ハムのスタンド

Hさん&Tさんのバスが到着する時間になったので駅前に戻り待っていると、Hさんが赤い箒を手に現れた。思わず

「えー、どうしたの(笑)?」

と聞くと、

「ストレーザで見つけたの。軽いし、ブラシの部分が細くて使いやすそうでしょ?スイスでずっとこういうの探してたのに見つからなくって、こっちで見つけたから買ってきた」

確かに、私も家で使っている箒はブラシの部分がデッキブラシのような太さで狭い所に入らず、ずっと使い難いと思っていた。

「それも8ユーロ。安いでしょ?」

確かに確かに!その値段はスイスではあり得ない。私も欲しい!!

Hさんが手にしていた箒

右が我が家のくたびれた箒。ブラシ部分が太くて使い難い。


しばらく箒の話で盛り上がった後、荷物をコインロッカーに預けに行くが、柄の部分は長すぎて入らないのでブラシ部分だけ取り外して持ち歩くことになった。

まずは腹ごしらえのためにピッツェリアへ。空いている椅子の上にカバンを置いて、柄をそこに立てかけたHさん。すると、注文を取りに来たウェイトレスがそれを見て、

「あら、お掃除の人が忘れたのかしら?ごめんなさい」

「いえ、これは私のなの」と、Hさん。

ウェイトレスは笑いながら

「あ、そうなのね、良かった」

テーブルでは「そりゃなんでこんな物持ち歩いてるの?って思うよね~」と皆で大笑い。

その後マルクト散策を楽しみ、子供達も疲れ、お天気も怪しくなってきたのでジェラートでも食べて一休みしようということに。入ったジェラート屋は小さく、奥に2つのテーブルがあるのみ。一つのテーブルは既に常連客らしいイタリア人男性二人が座っていたので、その隣のテーブルへ。そしてその一人の男性の横の壁にはお店のものであろう同じ箒が立てかけてあった。そこへ柄だけ持って現れた我々を見て男性の一人が

「これと同じじゃないか。それもブラシがない!」

と話しかけて来た。

そこからはイタリア語は話せないけれどスペイン語を勉強中でコミュニケーション能力のとても高いHさんと男性達でお喋りが始まった。そのうち商売そっちのけでお店の女性二人も会話に加わり、イタリア語、スペイン語、英語、ドイツ語が混ざり合って会話が膨らむ。やはりイタリア人は陽気でお喋り好きな人が多い。Hさんと男性の一人が同じ年だということも判明し、二人はなぜかハグ(笑)。

最後にHさんが私を指して

「彼女もこの箒が欲しいんだけど、どこか買えるお店ある?」

と聞くと、

「ここから2分歩いた所にスーパーマーケットがあるから、そこにあるかも」と。

「わかった、ありがとう。今から行ってみる!」

とお礼を言ってお店を後にした。

2分は歩いたが見つからずうろうろしていると、さっきの男性二人がちょうど歩いてきて、「こっちだ」とお店の前まで連れて行ってくれた。

果たしてお目当ての箒があった。柄=1.8ユーロ、ブラシ=2.5ユーロ、合計4.3ユーロ。更にお安い!!Hさんもあまりの安さにブラシ部分の替えを購入。

この後は2本に増えた箒を私が持ち歩き、さっき散策の途中で見たケーキ屋でお菓子を買って帰ろうということになった。そのお目当てのケーキ屋さんに到着すると、お店の女性が私を見て

「さっきは1本だったのに2本に増えたのね!」と笑っている。

「そうそう、見つけたの!」

と、ここでもまた笑いが起きた。

箒のお陰で生まれた楽しい会話の数々。主目的のマルクトよりも強い印象を残した地元の人達との交流で、とても楽しい一日だった。

そして買ってきた箒は、我が家で毎日大活躍中である。